未来の果ての子どもたちに、何を伝え、何を残さないのか
A to Z、過酷な現実を生きる大人たちに問いかける意欲作
前作『Great Evening』のCDの帯には、収録曲「暖炉」の歌詞を引用して「だけどもっと夢を見ていいじゃないか」と書かれています。世知辛い現実にあって音楽が夢を見るひとときであってくれたらという思いでした。
あれからまたいくつかの歳月を経て、世界は更なる混沌に向かっているようです。COVID-19という疫病の世界規模のパンデミック、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻、世界各地で起こるこれまでにないほどの規模の天災。一夜にして平和な毎日が脅かされる現実を目の当たりにしています。
音楽には人を癒す力があると信じていますが、今現在求められているのは逃避的な癒しだけではないと感じています。このアルバムを作るにあたり、過酷で不条理な現実を一度しっかりと冷静に凝視することにしました。
過去というものはどうしても脚色されます。楽しかった思い出はより美しく、ときにつらかった思い出はより凄惨になります。人がそう思いたがる方へ、思い出も変化していくのかもしれません。
しかし、現実は違います。現実は現実だけです。過去や、物語ではなく、現実に目を向けた曲作りにここまで徹底したことはおそらく私の音楽作家人生の中で初めてのことでした。
そしてこのアルバムの中で、私はまだ未来について描くことはできませんでした。どうかこのアルバムを聴いたあなたには、あらためて未来に思いを馳せてほしいのです。
アルバムタイトル『HAND DOWN』には「伝承する」という意味があります。未来の果ての子どもたちに私たちは、何を伝え、何を残さないのか。過去から何を学び、現在をどう生き、未来に何を託すのか。問いかけのような、課せられた責任のような、そんなアルバムになりました。
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